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2010年4月23日金曜日

「第9地区」を観た

公式サイト

2010年アカデミー賞にて4部門にノミネートされた「第9地区」(原題「district 9」)。
平日の夜ということもあって客席こそまばらでしたが、なるほどひと筋縄ではいかない、様々な部分で想像を膨らませてくれる良質なSF映画でした。上映時間は111分、字幕は松浦美奈さんです。

観客の視点としてはドキュメンタリータッチの映像が中心となっていることもあり、最初はMNU側の立場に添って物語に入っていくので、エビの異形さはただただモンスターという印象だし、スラム化した第9地区の不衛生な環境なども相まって、とにかく不気味。
字幕こそついているもののエビの声は基本的に「ゴゴ、ゴゴゴ」という音声のみで、また怪力で簡単にMNUの兵士を殴り殺したりするので、粗暴さ、わけのわからなさの方が際立っている。

しかし、ストーリーを追っていけばいくほど感情移入の方向は、MNUではもちろんなく、主人公・ヴィカス、または彼以上に宇宙人のクリストファー親子へと向かうようになっていると思う。
これは親子が他のエビと比較して非常に高度な知能を持っていること、穏健路線を重んじる平和主義者であること、そして無邪気な子供エビの振る舞いなどに、否応なしに引き込む魅力と勢いがあるからかも。

人間対宇宙人の戦いをステレオタイプに描くのではなく、アバターと通じるような、未知の存在との共存というテーマもあり、しかし同じ人間でもMNUとギャングでは双方エビを利用しようという目的は同じだが、利害や手段においては対立していたりするし、エビはエビで、彼らなりに環境への順応をしつつ、故郷に帰ることを目的とする者もいたりで、それぞれの思惑が色々入り交じっている感じです。

もっとも、面白いだけに、惜しいなあと思うところもあります。
MNUの面々がいかにも悪役のための悪役に過ぎ、ひとりくらいヴィカスの側へ寝返ったりする社員がいる方が幅が出てきそうだし、クリストファーはエゴを振り回すヴィカスに甘すぎる気もするし。
あと、ヴィカスの奥さんがどうも中途半端な存在。彼が電話をかけるシーンあたりでの奥さんの態度を見ていると、ヴィカスがそこまで帰りたい!といきり立つほど幸せな家庭なのかなあという印象が少しした。

とはいえ、見どころとしては、ストーリー序盤でエビの卵に火をつけて、そのはぜる音をポップコーンに例えて笑っているヴィカスがどう変わっていくのか、という部分につきます。
というのも本作の根っこは、ドキュメンタリータッチでありつつもヴィカスの物語にあるので、やはり落とし所もそこへ向かっているのですが、彼を取り巻く他のグループも注意深く見てみれば見るだけあれこれ考える要素が際限なく広がっていくような、もっともっと作品の世界を探検したくなる雰囲気も随所にちりばめられた映画でもありました。

シャルト・コプリーの実に人間臭い演技も本当にお見事だったと思います。そして最後に、あのエビの、グロさにも愛らしさにも転じる絶妙なデザイン…その動き、目の表情にはすっかり魅了されました。
シリーズ化あるかな?期待してます。

【参考】第9地区 - Wikipedia
【参考】シャルト・コプリー インタビュー

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