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2010年6月7日月曜日

「告白」を観た

公式サイト

先日公開されたばかりの「告白」を観てきました。
松たか子主演、中島哲也監督による同名小説の映像化で、上映時間は1時間46分。
少年犯罪も重要な要素になっていて、それがまた血生臭かったり、
精神的に追い詰めたりといった感じなので、R15+指定は妥当でしょう。

内容的には相当シリアスで、また情緒的な面にかなり揺さぶりをかけてくる映画でした。
なるべく冷静に、本作の持つ高密度な心理劇という面を意識して鑑賞しましたが、
それでもやはり観ていて疲れるストーリーです。しかし、見応えは充分すぎるほど。

原作は未読なので、映画のみを観ての感想ということになりますが、とにかくテーマが重く、暗い。
森口先生、修哉、美月、直樹、ウェルテル、直樹の母、クラスの生徒たち…、
彼らの心の芯に存在するものや、その揺れを観るひとの頭の中で整理し、
把握することは非常に困難で、なぜ困難なのかといえば、
それら心理の混在の有り様が真に人間的であるからに他ならないからだ…。
…堅苦しく言えばそうなのだろうか?なかなか的確な言葉が見つかりません。

惨い事件が起こる度にマスメディアで踊る心の闇、という言葉は、
まあ何と言うか、ずるいよなあとよく感じたりしますが、
主要な登場人物それぞれに告白(全てが心情の赤裸々な吐露では必ずしもないが)をさせることで、
闇を闇で終わらせずにそれと向き合わせていくところにある意味カタルシスを感じます。

それにしても、松たか子の演技といったら…セラピストか催眠術師か、
とでもいうような落ち着きと無機質さを持った冒頭の告白。
娘を殺された復讐しか頭にない、あの狂気じみた静寂さに充ち満ちた丁寧な口調。
本当に怖い。

それとは対照的な、森口先生が壮絶なまでに感情を吐き出す、レストランを出た後の場面。
あそこでの逃れえない絶望とも途方も無い孤独とも表現しきれない慟哭は……会心の名演だと思う。
失礼ながら正直、あれだけの演技の出来る女優だとは思ってなかった。

映像の部分で目を惹いたのは幻想的な演出の美しさと、その場の状況を反映した空間の描写。
今まで目にしたことのないような斬新さ、というのがあるわけではないのだけど、
森口先生が騒がしい教室で淡々と告白をするシーンでのジワジワ這い寄る圧迫感とか、
愛美の殺害現場となった、緑に濁り、澱みきった学校のプールと隣り合って建つ、
ワンコがウロチョロする長閑さに満ちた住宅にある深い断絶を俯瞰で見せる場面は印象的だった。
圧巻はやはり終盤の体育館での森口と修哉の会話における、耽美的カタストロフとでもいうべき演出。
今年観た映画では「シャッターアイランド」にも似た、深淵の映像美を思い起こさせたような。

まあ、どうしても観る側としては映像作品として触れる時、凄惨な場面でも画的な部分で、
どこか芸術的だったり、ダイナミックな要素を残しておいて欲しい、とも思ったりするけれど、
犯人Aである修哉が関わるシーンは敢えて言えば甘美というか、ファンタジックだったり、
思春期の淡い匂いのようなものがあったりしたのも目に焼き付いた。
その辺り、レディオヘッドの陰影やBorisのポストロック的ノイズと絡みあって、
それが事実なのか、妄想なのか、わざとぼかされている部分によりインパクトを与えたかも。

キャストで他に印象深かったのは、美月役の橋本愛や、直樹役の藤原薫。
美月には思春期の頃、みんながゲラゲラ笑っている中、ひとり何か別のものを探すように、
どこかを見つめていた女の子の持っていた神秘的な魅力があって良かったです。

直樹は…相当ヘビーな役回りなのに、彼の告白には奇妙な清々しさのある辺りが興味深かった。
どこか憎めない、ぼんやりしたお人好しな奴がプライドを守るためにとった行動の罪深さ。
ああいうキャラはクラスや組織に一人は必ずいるから生々しい。

少し違う見方をすれば、復讐を遂げるために執拗に謀略を張り巡らせる森口先生もまた、
もし仮に娘が殺されることがなかったとして、では果たして精神的に健全な人物なのだろうか?
という部分でなんだか疑わしくもある、という点で、やはり比較的ニュートラルに近いのは、
ウェルテルであったり、いわゆる中二病的な内面をみせる美月なのかもしれません。

ラストについて考えると、パンフにある松たか子のインタビューを読んで少なからず納得したのは、
修哉と目を合わせることで犯人である少年の持つ心と正面から対峙した森口先生、
というような話で、彼女が最後の最後に口にする言葉は彼への最高度の揶揄でありつつも、
多少そのキャラクターに変化が現れている、という点に特に注意を払っていたのかなと思いました。

ただ、本作で疑問に思う点がなくはありません。しかしそこは原作と照らし合わせての話になるので、
読んでない以上は評価してはいけない部分でもありますが、それでも言わせてもらうと、
クラスの中におけるその他の生徒や、修哉の母については、多少カリカチュアが過ぎる気もしたし、
また、過剰なまでに殺人が発生していくせいで個々の事件の印象が散漫になってしまってました。
そこを補って余りある演出とキャストの演技で何とか映画に落とし込んだ監督の労苦がしのばれます。

余談ですがこの映画、予告編を観たときは正直な所、そそられませんでした。
これだけ魅力を持った作品なのに…そこはもう少しうまく宣伝して欲しい気がしました。

【参考】告白(湊かなえ) - Wikipedia

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