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呑んだくれの元売れっ子カントリー歌手に扮するジェフ・ブリッジスの名演が光る、
彼のアカデミー主演男優賞受賞作「クレイジー・ハート」を観てきました。
それにしても、主人公・バッド役のジェフ・ブリッジスの太い歌声は心に沁みた。
まさに、彼の歌あっての映画という感じ。
愛車のベスに揺られながら、時にはボウリング場でのライブまでこなすバッドのドサ回りの生活には、
どこかミッキー・ロークの「レスラー」を思い出させるところもありつつ、
しかし周囲の誰もが彼の未だ枯れない才能の輝きを信じて疑わないところが良いです。
とはいえバッドのアル中ぶりは酷く、ストーリー中盤まではステージ中だろうが何だろうが、
とにかく途中で裏に引っ込んでは飲んだり吐いたり、という具合。
寝床では胸の上にグラスを乗せ、煙草の方も吸いさしを火種にチェーンスモーキングと、
まさに現代ではおよそ支持されることのない見本のようなバッドなのですが、
どこかでその太く短い豪快な生き方(といってももう充分オッサンなのだが)がアメリカ的というか、
彼が広い空の下、バンを走らせていく姿と相まって不思議な力強さを感じさせもする。
そんな性癖が原因となり、愛するジニーの家へ向かう最中に車が横転事故を起こしてしまい、
松葉杖の生活になったりもするのだが、それでも酒を止められない姿は何とも痛々しい。
それを咎めつつも彼の心に寄り添おうとするジニーではあったが、そこである事件が起こり…。
俳優陣はジェフ・ブリッジスの圧巻の存在感だけに限らず、実に素晴らしいです。
バッドのかつての弟子であり、押しも押されぬスターになったトミー役のコリン・ファレル。
ジャーナリストとして彼の前に現れるも恋仲になるジニー役のマギー・ギレンホール。
そして、バッドの依存症克服を手助けする彼の最大の理解者、ウェイン役のロバート・デュヴァル。
家庭とは無縁に生きてきたオーティス・ブレイクという男を取り巻く人々の温かさ、
実の息子との深い溝こそ埋められないままに話は進むが、彼自身は決して孤独ではない。
その辺りの機微を丁寧に描いている雰囲気がとても印象的でした。
この映画を観ていて、自分はギタリストの故・大村憲司氏が生前雑誌のインタビューで語っていた、
「ギターソロはひとつの物語なんだ」という言葉を思い出しました。
ジニーの「曲はどういう風に作るの」という問いかけに、「俺の人生を基に」と答えるバッド。
ひとつの楽曲が、ひとつの映画の中で形作られていくフッテージは静かに、
でも確かに心を揺さぶるものでした。
決して派手さはないけれど、自分自身が歳を重ねた時、また触れてみたい作品だと思います。
Jeff Bridges: The Weary Kind(歌詞)
【参考】クレイジー・ハート - Wikipedia
2010年6月14日月曜日
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