見事オスカーに輝いたナタリー・ポートマン主演の「ブラック・スワン」を観てきました。
実際に鑑賞するまではどういうジャンルか掴めないところもあったのですが、
観終えた感じ、これはやはりサイコ・スリラー映画ではないかと思います。
純粋なバレエ映画としての躍動感などを期待すると物足りない部分があるでしょう。
露出度は案外少ないものの、それでも結構セクシャルなシーンが多めなので、
バイオレントな演出を抜きにしても、ちょっと注意が必要かもです。。
見どころは何といっても、清く厳しく育てられ、成人してもなお母ひとり子ひとりの家庭で、
抑圧された家庭環境にいるニナ(ナタリー・ポートマン)の葛藤と、
その精神の歪みが生み出す、日常の中にボディーブローのように差し挟まれる妄想の数々。
ライバルであり怪うい欲望さえはらんだリリー(ミラ・キュニス)との関係も、
彼女のダークサイドを増幅させているに違いなく、ジキルとハイドよろしく、
次第に黒鳥の演技の中に自らの深淵を投影させていくようになるニナ。
悪化する彼女の背中の傷や爪への執着など、じわじわと異常性が口を広げていく不気味さは、
まさに漆黒の翼を広げるブラック・スワンの羽のようでもあります。
ナタリー・ポートマンは、目を真っ赤にして狂気の世界を演じていましたが、それほど気味の悪さはなく、
踊り子として表現力を極限まで追求する姿の持つ悲壮感からにじむ切なさが上回っていたような気がします。
過剰なまでの潔癖さと大胆さの狭間で精神の振幅に苦悩する、しなやかで繊細さの求められる演技を、
身体を張ってやりきっているのが実に見事、という感じでした。
ちなみにダンスの場面は顔だけナタリーに差し替えられたプロの演技らしいですが、
それを差し引いてもかなり絞った身体には役作りに対する執念が感じられます。
観ていて怖いと思ったのはむしろ脇役の二人、母親役のバーバラ・ハーシーや、
ベス役のウィノナ・ライダー(実感こもってそうで余計に背筋が寒くなる…)の方で、
特に表情で凄みや怨念にも近い情念のうねりを体現していたように思います。
また、ヴァンサン・カッセルのトマスはただ単に女に手が早いだけでなく、
きっちり見るべきところは見ているプロフェッショナルな感じがうまい具合に出てました。
そして背中のタトゥー(お前バレリーナだろ…!)も印象的なリリー役のミラ・キュニス。
初めて観た気がするけど、いかにも遊んでる雰囲気にしろ、レズシーンにしろ、インパクトありました。
演出的には「痛い」シーンの印象も強い映画でしたが、鏡の中のニナが勝手に動いているシーンが随所に出てきたり、
明かりの消えた真っ暗な部屋で、いきなり母親があらぬ所から現れてみたり、
妄想レズシーンでリリーの顔が一瞬ニナ自身の顔にすり変わったりといった、
ここ最近では「シャッター・アイランド」でも味わわされたサイコ的な場面にもいちいちビクっとさせられました。
その中でも圧巻はやはりクライマックスの黒鳥のダンスシーンですが。。あの場面だけでも観る価値アリです。
にしても、劇中、どこまでがニナの世界で、どこからが現実の出来事かは最後までわからないようになってました。
ラストで彼女が浮かべる、息も絶え絶えながらも安らぎに満ちた恍惚の表情は、
自らの完璧なバレエに対する充実感からなのか、呪縛から解放された安堵感からなのか…?
ニナの劇的なパフォーマンスと表裏一体となった光と闇のおどろおどろしい交錯は、
黒いタイトルバックで始まり白を背景としたエンドロールで締めるこの映画に、
何とも言えない異様なカタルシスを与えているのは確かで、話題性も含めて是非観て欲しい一本だと思います。
【公式】映画『ブラック・スワン』公式サイト
【参考】ブラック・スワン - Wikipedia
2011年5月18日水曜日
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