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2011年2月27日日曜日

「ヒア アフター」を観た

ともすればオカルト映画になってしまう「死後の世界」というテーマを、
クリント・イーストウッド監督が過剰な演出を排した群像劇として描いた作品です。
どういう感想を持ったかを一言で言い表すのは難しいタイプの内容ですが、
印象に残る場面を振り返っていきながら書いてみようと思います。

まずは津波のシーン。予告で騙されたが、冒頭で来る。
特に前触れらしきおどろおどろしさとか不安げな景色を見せることもなく…、
マリーの愛人がホテルの窓からぼんやり外を眺めていたら、なんだかでかい波が来ている。
船がひっくり返る。あれ、ひょっとしてこれはやばいんじゃないか?と思う間に、
どんどんなぎ倒され、押し流される木々、そして人々。
目の前で起きている事実を淡々と描くところが怖さを増幅させている。

波に飲まれたマリー(セシル・ドゥ・フランス)と土産物屋の少女は離れ離れ(多分あの子は犠牲に…)、
さらに、運良く瓦礫につかまったマリーの後頭部に流木が突然激突。
(ミリオンダラー・ベイビーでヒラリー・スワンクが倒れて椅子に頭を打ちつけるのを思い出させる痛々しさ)
意識を失ったマリーが生死をさまよう中で目にする、光の中に立つ人々の影(津波の犠牲者)。
次の瞬間、生還するマリー。彼女の人生が別の方向を向き始める。

本物の霊能力者だが、その力を「呪い」として忌避し引退、工場で働くジョージ(マット・デイモン)。
通い始めたイタリア料理の教室(この映画で唯一笑いのあるシーン)で、
積極的にアプローチしてくるメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)と親しくなる。
ジョージもまんざらでもなく、自宅で一緒に料理を作ることに…そこでひょんなことから彼女の過去を知る。
(はっきりとは言及されないものの、メラニーは父親から性的虐待を受けていたと思われる)
夕飯どころではない重い空気…泣きながら去るメラニー。(残念ながらブライスの出番はここまで)
自分の持つ力を改めて憎悪するジョージは、二度と能力を使わないと決意した。

薬物中毒に苦しむ母を愛し、守ろうと見事な連携プレーをみせる双子の少年、ジェイソンとマーカス。
しかし、活発で頭の回転も速い兄のジェイソンは事故でこの世を去ってしまう。
里親に預けられることになりながらも、失った兄の存在に少しでも触れていたいマーカスは、
家を飛び出して霊能力者を訪ねては偽物ばかりであることに失望しながら、心の穴を埋めようと藻掻く。

※ ※ ※

主要キャストの三人はジョージがアメリカ、マリーがフランス、マーカスがイギリスと、
それぞれ接点を持たないままストーリーが進んでいくので、彼らの存在が一体どこで結ばるのか、
物語の佳境を迎えるまで観ている側は目が離せません。
ネタバレになりますが、キーとなるのがロンドンでのブックフェアなのが何とも…うまいなあと思いました。

引っかかったのは、やはりメラニー。ちょっとかわいそうな扱いという感じがしました。
ジョージが霊能力を忌み嫌う根拠としての存在以上の絡みが欲しかったかな。
(表面上かわいく振舞う、実は心に傷を負っている女という役柄がそう思わせる部分も大きいのですが)
彼女に能力を見せた時に味わった経験が、
後のマーカスにコネクトする際の彼の姿勢に少なからず影響を及ぼしているだけに…。

そういえば、ジェイソン&マーカスはキネマ旬報でのクリント・イーストウッドのインタビューによれば、
まったく映画の出演経験はなかったそうですが、本当に良い演技をしていました。
いかにもイギリスの子供といった顔立ちで、自然な感情の発露のまま演じるさまにジーンと来ます。

その物語の最重要シーンといえるジョージとマーカスのやり取りですが、脚本にはこうあるらしい。

GEORGE
...he says...
...but in the way he says it, the look on his face, we
realize JASON has already gone, and it’s GEORGE speaking
here, not Jason...

GEORGE
...if you’re worried about being
on your own, don’t be. You’re not.
Because he is you.
(a beat)
And you are him.
(a beat)
One cell.
(a beat)
One person.
(a beat)
Always.

つまり、メラニーに包み隠さず死者の言葉を語ることで、彼女を深く傷つけてしまった経験があるからこそ、
ここではマーカスに対し、実際はジェイソンの魂は既に去ってしまっていたにも関わらず、
「君はひとりじゃない。君とジェイソンはひとつなんだ」という、
彼をひとりだちさせるための優しい嘘へと、文字通りHereafterへと、希望を繋げた気がするのです。

それは同時にジョージ自身のHereafter - 将来の道を開いたことでもありました。
ブックフェアで本を受け渡しする時のジョージの表情、マリーの表情を振り返りつつ、
ホテルでジョージからの手紙を受け取ったマリーが、それを読み始めて、ほんのちょっと経ったところで、
ハッとして笑顔になるシーンを思うと、彼女もまたわかる人にしかわからない感覚で、
ジョージに特別な印象を持っていたのがわかって興味深いです。

テーマが掴みどころのない部分の多々ある分野である以上、
例年のイーストウッド作品と比較して評価の割れるところもありますが、
個人的には観て良かったと思います。
逆に、これはイーストウッドが手掛けてなければ、危うい映画になっただろうことも想像に難くありません。
いずれにしても、近年の彼の作品は、ニヒルさは影を潜めた感じで、
より未来へとタスキを繋げていこうという作風の傾向がある印象は更に強まりました。


【公式】http://wwws.warnerbros.co.jp/hereafter/
【参考】ヒア アフター - Wikipedia

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