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第82回アカデミー賞にて、脚色賞および母親役のモニークが助演女優賞を受賞した映画「プレシャス」を観てまいりました。
時間帯はレイトショーで、客席は女性が多かったように思います。字幕は松浦美奈さんでした。
原作の方は、実際にニューヨークのオルタナティブ・スクールで教師をしていた作家兼パフォーマンス詩人であるサファイアが経験した、彼女の教え子たちとのエピソードを元に発表した「Push」という作品で、内容はというと、非常に重い。
貧困、近親相姦、そしてエイズと、主人公の少女・プレシャスはこれでもかというほどの過酷さに苛まれる。
が、決して湿っぽくならない。場面場面で挿まれるプレシャス自身のモノローグは、スクリーンに映る彼女のしかめっ面とは対照的に、無邪気で健気な、
思春期の少女らしさを残しつつ、また子供への愛も込められているところに救いがあるし、彼女自身がショックや混乱に襲われる時に立ち現れる妄想世界にもどこかユーモアが漂っているなと思いました。
それにしても、モニーク演じるプレシャスの母の強烈な存在感には目を見張るものがあります。
殆ど年中カウチにふんぞり返ってタバコをふかしつつ、実の娘に対して「さっさと飯を作りな!」だの「こんなもん食えるか」だの「学校なんか行ったって意味なんかあるもんか、このバカ」だの、もう怪物的というか、いくら血が繋がっているとはいっても、こんな親とよく住んでられるなあというシーンが続き、観ていて気が滅入るほど…オスカー受賞も納得の迫真の演技で、とにかく本当に凄まじいです。
母には母の思いが、もちろんあるのですが、それはそれとして、映画の終盤で彼女が、どれだけ自身の抱えていたものを打ち明けたとしても、やはり決して娘との決定的な溝を埋めるには至りません。
ただ、そんな鬼ババアのような母親も含めて、プレシャスにとって鬼畜のような父親の振る舞いがこの家庭を崩壊させてしまった事実が、この映画において物語が全く親父不在で進んでいくにしろ、色濃く影を落としているのは確かです。
そして、映画の中でプレシャスが一度だけ涙を流すシーンがあって、そこは本作の最も印象的なシーンのひとつになっているのですが、あの場面を改めて考えてみると、家でも学校でもいつも伏し目がちで暮らしていた彼女の感情が、あることによって噴出する時、傍にはEOTOのクラスメートの仲間がいて、また、親身になってプレシャスを支えてくれたレイン先生も目を潤ませながら「子供はあなたを愛している。私はあなたを愛している」と力を込めて彼女に説いていたりする。
特に、プレシャスが彼女自身の抱えている孤独を訴える場そのものはeach one teach oneの教室という、とてもアットホームで、のびのびとした雰囲気のある空間だったというところは、非常に映画の根底を流れているものを象徴しているように感じ、僕自身、強く心に残る場面でした。
内容が重いテーマを扱っているということで観るのに気後れする人もいるだろうと思いますが、人の輪が持つ温もりとか、生命力とか、そうした面も同時に触れることのできる作品だと思います。
余談ながら、本作にはマライア・キャリーやレニー・クラヴィッツなど、黒人系のアーティストも脇役で出てたりします。
特にマライア・キャリーはノーメイクでの出演ということで、正直、言われなければ誰だかわからないくらい地味で、かつ話す声も全くイメージと違うので衝撃でした。
何より、レイン先生を演じたポーラ・パットンという女優さんの美しさには見惚れてしまいました。ちなみに彼女自身は役とは違いストレートのようです。
【参考】プレシャス - Wikipedia
【参考】必然的に「プレシャス」役を引き寄せたガボリー・シディベの強運 - eiga.com
2010年5月3日月曜日
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